「パタゴニアとしてやりたいことを押さえつつ、常にお客様目線の提案をしてくれた」

平田さん アプリのプロジェクトがキックオフしたのが、2016年5月くらいでしたよね。

浅野さん それからプロジェクトチームに加わっていただくベンダーさん選定を始めて。ベンダーさん8社にお会いしたなかで、ランチェスターさんは1社目でした。

田代 どうしてうちを選んでくれたんでしょうか。

浅野さん アプリ開発そのものだけでなく、お客様がどんな体験をできるかという点をとても丁寧に考慮して、提案してくださったことが決め手になりました。

平野さん 同感です。ランチェスターさんはいつでも、お客様の目線でいてくださるんです。開発会社さんですから、技術にあかるいのはもちろん、事例やトレンドも本当によくご存知で、その上で僕たちがお客様へどんな体験を提供したいか、想いや意図を的確に汲んでくださるんですよね。

平田さん ベンダーさん8社は皆さん、いろいろな提案をしてくださいました。いずれも素敵な内容でしたが、ランチェスターさんの提案に特に心を揺さぶられました。私たちのやりたいことも、機能も、ファン作りといった面も大切にし、企業としてのブランディングを損なうことなく進めていけるような、バランスが取れた提案をしてくださったのが印象的だったんです。

田代 ありがとうございます。パタゴニアさんは、ブランドやミッションステートメント、企業としての在り方など、いろいろなことをクリアにし、それが全社に浸透している会社だと思います。だから僕たちもプロジェクトチームの一員として、そういった文化やストーリーを深く理解するようにしました。おかげで、アプリにどう落とし込むか、反映するかといったことは、考えやすかったですね。

浅野さん 本当に、パタゴニアのことを深く学んで、理解してくださった上で、企画やデザインを提案してくださって。熱いディスカッションを繰り広げることもあって、ひとつの物事を決めるのに時間がかかることもありましたが、一緒にひとつの目標に向かって進み、最終的にいいモノができあがったと思います。

バランス感覚のある企画提案をしてくれたことが、選定の決め手。(鈴木さん)

 

課題を一つひとつクリアにし、整理整頓。「いいモノを作る」ゴールへ導いてゆく

平田さん 私たちにとって、何もないところを一から作り上げるのは、今回が初めての経験だったんです。

田代 いつもは、USの本社と連携して、ということですよね。

平田さん USで形にされたモノを元に、日本ではこうして欲しいとリクエストを受けて、物事が進んでいくことが多かったです。でも、今回は本当にゼロの状態。とはいえ、私たち一人ひとりに、想いはたくさんありました。ただ、それをアプリとしてどう表現するか、どうすれば実現できるのか、イメージを具体化できずにいたんです。そういった課題の一つひとつをわかりやすく整理整頓し、優先順位をつけて、細やかなマネジメント、ディレクションを通じて、ゴールまで導いてくださったのがランチェスターさんです。

浅野さん 私たちが熱意を持ちすぎて、ぶれそうになった部分をコンセプトに立ち返って、「今回は◯◯がポイントですよね。となると、ファーストフェーズは◯◯に落ち着く方が、お客様も混乱しないのではないか」みたいな、フラットな目線の助言をいただき、軌道修正したこともありました。

平田さん 顧客情報の統合をしたい、お客様の情報も取得したい、カタログや製品も見せたい、ストーリーも伝えたい……。私たちにはそんな風にやりたいことをいろいろ抱えていました。でも、どうすればそれを形にできるのか、経験やノウハウがないため、モヤッとした部分もあったんです。

浅野さん オムニチャネル・プロジェクト全体だと各部門から代表者を中心に25人ほど、アプリのプロジェクトだと、ITにストアのオペレーション、eコマース、カスタマーサービスなどから、コアメンバーが10人ほど集まりました。皆それぞれの分野では、知識や経験をしっかり持っているものの、アプリ制作自体も初めてで、うまく進めていけないところもあったんです。

平田さん パタゴニアとしてやりたいことをきちんと押さえた上で、「こういう機能はあまり必要ないのでは」「機能が多すぎるから絞ったほうがいい」など、お客様目線を持ってはっきり指摘、方向性を明示してくださったのにも助けられました。アプリが現状の形でできあがったのを見て、むしろこの形以外は考えられない、というくらいの自信を持っています。

課題を整理整頓し、細やかなマネジメント/ディレクションで導いてくれた。(平田さん)

 

「ストーリー」はこだわった機能のひとつ。パタゴニアの想いを汲んで形にした

鈴木さん 私もひとつ、とても印象深かったエピソードを思い出しました。社内向けにアプリの開発裏話や機能を伝えるために、開発に携わった田代さんと兎村さん(デザイナー)、笹原さんにインタビューをしたんです。すると、3人とも「このアプリで一番こだわった機能は“ストーリー”」だとおっしゃって。

田代 そうでしたね。全員がまったく同じ答えでした。

パタゴニアが持つ自社、製品に関わるさまざまな物語や情報に、お客様が行き着きやすくなるよう、「ストーリー」として、タイムライン形式で閲覧できるようにしました。

鈴木さん パタゴニアが大切にしているストーリーを、お三方も大事に思い、お客様に伝えたいポイントとして意識してくださっているんだな、と嬉しくなったんです。社内のスタッフにも、ストーリーという機能がなぜ、どういう経緯や想いがあって生まれたか伝えると、心から喜んでいました。

浅野さん いいねと言ってくれましたよね。それにストーリーという機能をスタッフ自身も楽しんでいます(笑)。

鈴木さん お客様にもアプリを使って、ストーリーを読んでみてくださいね、と自信を持って伝えられます。

浅野さん そもそも、アプリで実現したいことのひとつとして、パタゴニアが膨大に持っているストーリーをお客様に触れてもらいやすくする、見やすくする、というものがありました。けっこう大きな課題だったんですよ。

田代 見せ方について熱くディスカッションした記憶があります。

浅野さん 例えば、動画の見せ方あたりは、ディスカッションを積み重ねましたよね。最初はスマホを縦にした状態で見ていても、動画を拡大表示して、スマホを横にした状態で見る人が多いから、横にしても問題なく見られるようにしよう、とか。

平田さん 週1で開催していた定例会議が、朝10時頃にスタートして、気づくと夕方4時まで議論していた! みたいなこともありました(笑)。休憩を取るのも忘れて、夢中になって話し込んで。

パタゴニアが大切にしていることを理解し、共に考えてくれた。(浅野さん、左)

 

 

プロジェクト成功のカギのひとつは、チーム、組織の風通しの良さ

田代 本当ですね。約1年で無事にリリースできて、関わったメンバー共々、本当に嬉しいです。とても大きなプロジェクトですし、1年でこうして形にできたのは、すごいことだと思うんです。

平野さん ランチェスターさんと組めたからだと思います。今日私はそれだけ言いたくて、この場に参加しています(笑)。

田代 褒めすぎです(笑)。うまくいった理由のひとつは、パタゴニアさんの社内で、部門間、いわゆる横のつながりがきちんと取れていることと、全員が同じゴールを見据えていることだと感じています。部門間に隔たりがある場合は、コミュニケーションも円滑に進みづらく、ビジョンやゴールへの共通認識を共有しづらくなりますから。

平田さん 私自身も社内の風通しの良さは感じています。まだまだ課題はありますが、オムニチャネル・プロジェクトをスタートする前に、プロジェクトを通じて実現したいことやビジョンを、部門をまたいでスタッフ皆でディスカッションしたんです。そうやって目的を明確にし、皆が共通理解を得て、プロジェクトを進める上での大本を皆で作る――そういった環境は確かに社内にあります。

田代 ビジョンを皆で固める、というのは今回に限らず、普段からしていることなんですか。

平田さん そうですね。2泊3日の泊まり込みで徹底的に議論したり、丸1日かけて部門全体で議論したりするミーティングはあります。自分たちが2025年にはどうなっていたいか、社会により良い影響を与えて、社会変革を起こすために、自分たちの部署は何ができるのかなど、話し合う機会は多いと思います。そういうカルチャーが根付いているので、今回のオムニチャネル・プロジェクトも同様の形で進めてきました。

田代 僕、パタゴニアさんのストア研修に参加させていただくため、一度仙台ストアに行ったんですよ。そこにUSや東京など、各地からスタッフさんが集まっていて、仲の良さだけではない、深いつながりや信頼感があるなぁと感じました。そういった要素が、大規模なプロジェクトをうまく進めるポイントのひとつではないかと思います。

浅野さん ありがとうございます。それにしても、ストア研修のために、わざわざ仙台まで来てくださったり、リリース初日も自ら渋谷ストアに足を運んでくださったり……。

田代 渋谷、行きましたね(笑)。

浅野さん 誰よりもまずお客様のことを考えて、お客様がどんな体験をできるのか、常に考えてくださっている、田代さん始めランチェスターの皆さんの姿勢に感動するばかりでした。

平田さん リリース後も、さらに良いアプリにし、お客様に広げていき、喜んでいただきたいので、これからも力を貸してください。

田代 ありがとうございます。パタゴニアさんのオムニチャネル・プロジェクト全体が、アウトドア業界のみならず、さまざまな業界に影響を与え、社会的にも良いインパクトをもたらすものだと考えています。それに携わることができて光栄です。これからもよろしくお願いします。

本日は、インタビューにご協力いただきどうもありがとうございました。