なぜDXが進まない? ドラッグストア業界のアプリ導入の状況とは
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なぜDXが進まない? ドラッグストア業界のアプリ導入の状況とは

リテール企業が売上を伸ばしていくためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくことが重要であり、近年、ますますその重要性は増しています。そんな中、ドラッグストア業界はDXにやや遅れをとっている印象があります。アプリ導入やDXの状況など元ココカラファインでデジタル推進を担当し、現在は店舗のICT活用研究所代表の郡司 昇さんにお聞きしました。聞き手はランチェスターのプランナー・篠田 健吾です。

アプリを作ることが「目的」に…ドラッグストアのアプリ事情

店舗のICT活用研究所代表 郡司 昇さん
1999年株式会社ランド設立、代表取締役社長。セイジョー(現ココカラファイン)とFC契約。2007年セイジョー入社。調剤事業部課長→営業管理課長兼ココカラファインHD調剤担当で業務効率化・コスト削減・アライアンス等担当。2013年株式会社ココカラファインOEC社長就任。2016年株式会社ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。2018年4月から現職。

篠田:ドラッグストアはポイントカードを導入しているところが多いですが、カードを作るときの情報登録が紙ベースだったり、登録不要ですぐに使えたりするパターンをよく見かけます。なので、個人情報を活用できていないのかなと思っているのですが、どうですか?

郡司:ドラッグストアでは、ポイントカードを作るときにお客さんに申込書を書いてもらっても、そこからデータにしていない企業があります。なぜなら、元々はDMを送るために、申込書に住所や名前を書いていただいていましたが、今はDMを送るドラッグストアが少なくなっているからです。そのため、お客さんからそもそも個人情報を聞かなかったり、情報が不正確だったりすることが多いのです。

篠田:なるほど。個人情報を管理できていれば、ドラッグストアでアプリを作るときに活かせると思ったんですけどね。ドラッグストアにアプリ導入を提案すると、ポイントカードやPOSシステムの連携は、クラウドとつなげるのは駄目だとか、既存のカードは無くせないという話が返ってきます。古いシステムとのしがらみが多い気がしていて……。

郡司:新しいものの導入に対して腰が引けてる部分はあるでしょうね。とは言え、マーケティングや販売の担当者には「新しい取組みをやらなきゃ」と思っている人も多い。ただし、残念ながらアプリを作って終わりということが多いです。

篠田:ドラッグストア業界の大きな課題ですね。活用できていないということは、CRMを導入しているところが少ないのでしょうか。

郡司:そうですね。一回アプリを作って終わりになってしまいがちです。さらに、アプリ開発の追加費用を出せない会社も多いです。リリースした後に「この機能を足せばうまくいきそう」と思っても予算がない。CRMに関しては、システム云々ではなく顧客視点が必要ですが、顧客軸のデータマーケティングができている企業は少ないと感じます。

篠田:アプリを作ることが目的になってしまってるんですね。

郡司:そうです。

篠田:最初にコンセプトを決めていないから、アプリでやるべきことが曖昧になって、作って終わりになってしまうのかもしれませんね。コンセプトメイクはアプリを出すにあたり非常に重要なことなので、そこから一緒に作り上げていけるベンダーを選ぶべきでしょう。

郡司:アプリをリリースしたものの活用できていないのは、ドラッグストアだけでなくリテール全体に通じる話なんですよ。

篠田:色々と課題が多そうですね。今日は一つひとつ解決策を見つけられればと思っています。

CRMを導入し、売上アップに繋げているドラッグストアも

ランチェスター プランナー 篠田 健吾

篠田:お話を伺っていると、CRMの導入が大きな課題かなと思いました。

郡司:そうですね。うまくいっているかは別として、CRMを活用しようとしているのは大手数社ぐらい。お客さんの情報を使って何をしているかというと、顧客一人ひとりの分析ではなく、商品軸での分析をしているんです。つまり、「この商品が売れているからチラシに掲載しよう」という販促のために使っているわけです。

篠田:なるほど。ドラッグストアのアプリって、5%とか10%のクーポンをよく出しているじゃないですか。CRMを導入すれば、顧客に合わせたクーポンが出せると思うんですが……。

郡司:そういう意味では、CRMを上手く使っているドラッグストアもあります。例えば全国チェーンのA社と地方チェーンのB社では、店頭に端末があって、ポイントカードかアプリのバーコードをかざすと、クーポンが表示されるんです。画面の下のタブに、薬、化粧品、ペット用品などのカテゴリーが表示されていて、その中から自分がほしいクーポンを選ぶんですね。何度か買い物をしていると、過去に選ばなかったタブが消えていきます。そして、よく選んでいるタブのカテゴリーは中分類にブレークダウンして、より細かいカテゴリーを出していくんです。

篠田:その人がよく買っているものを深掘りしていくんですね。

郡司:そうです。例えば、化粧品を選んだ人がいたとします。何度か選んだあとには、もう一段階細かいカテゴリーの、基礎化粧品と色物コスメの選択肢が出る。そこからさらに、色物コスメをよく選んでいたら、口紅とチークから選ばせる……みたいな感じです。

篠田:売上への効果としてはどうですか?

郡司:客単価は上がっています。

篠田:素晴らしい。CRMを導入している強みですよね。アプリでパーソナライズされたクーポンや割引情報が出せれば、顧客単価が上がり、売上にも繋がります。ちなみに、ドラッグストアは処方箋薬局を兼ねているお店もありますが、アプリの機能にお薬手帳って必要だと思いますか?

郡司:僕はいらないと思っています。なぜなら、今後マイナンバーカードが保険証を兼ねて顔認証もできるようになります。その流れで、2022年には処方箋を電子化すると厚生労働省が方針を固めています。ここからは僕の予想ですが、電子処方箋になれば、そのデータを個人で管理しようという動きになるはず。そうなれば、個別に作るお薬手帳のアプリはいらなくなります。

篠田:確かにそうですね。

郡司:現状は、FAXで処方箋を受け付けていますよね。後で原本を持って行って、薬を受け取るという。待たなくて済むから便利です。

篠田:それもアプリでできるようになるといいですね。

郡司:お薬手帳アプリの多くは処方箋画像送信機能があり、そちらが使われています。

地域特性の把握、EC、オンライン接客……ドラッグストアが抱える課題

郡司:全国展開しているドラッグストアが抱える課題として、地域によって品揃えやレイアウトが違うことを把握できていないというのもあります。

篠田:どういうことでしょう?

郡司:関西のドラッグストアには、PVA洗濯のりがいっぱい並んでいます。関西の人はそれが当たり前だと思っているけれど、関東の人はあまり知りませんよね。

篠田:確かに関東ではあまり見かけないですね。それはエリアマネージャーでも把握できていないのでしょうか?

郡司:そうですね。自分の担当エリアのことしか分からないことが多いと思います。よくある失敗例として、M&Aで全国チェーンになって東京に本部ができます。そこで一括で商談をしようとするんですよね。本当は、各エリアで売っているものも、売れるものも違うから、本部だけで話を進めてしまうとうまくいかなくなる。

篠田:全国で同じような施策を打ったことで、売れるはずのものが売れなくなるのはもったいないですよね。これもCRMで解決できるはず。顧客分析ができていれば、地域や店舗に合わせた打ち手を出すことができますから。

郡司:そうですね。マーケットに合わせた打ち手が必要です。

篠田:ドラッグストア業界は、ECは積極的に行わないんですか?

郡司:ドラッグストアって、実は商品点単価と粗利益率が低い業界なんですね。しかもドラッグストアのECで買いたいものって、水やトイレットペーパーなどの大きいもの・重いものになるんです。そうなると、配送コストばかりがかかってしまう。だから、ECで大きな利益を上げるのは正直厳しいです。黒字化するだけでもそう簡単な話ではありません。一方、店舗受け取りサービスを行っているお店もあります。その店の棚になくても、チェーン他店で使っている自分の好きな商品を取り寄せできるなど、評判は良いです。

篠田:店舗受け取りのような、在庫情報を知るサービスはあってもよさそうですね。EC業界ではライブコマースのようなオンラインの新しい接客スタイルが注目されてますが、ドラッグストアでオンライン接客をすることについてはどう思われますか?

郡司:コミュニケーション手段として、そういった接客はありかもしれないですね。海外だと、アメリカの大手チェーンのウォルグリーンの事例があります。アメリカは国民皆保険ではないので、病院で診察や治療を受けると費用がかかって大変です。そこで、ウォルグリーンでは、店内に併設されているミニッツクリニック(簡易診療所)に、数十ドルで相談ができるサービスを行なっています。ウォルグリーンのアプリでは、その機能をEC以上に積極的にアピールしています。

アメリカの薬局チェーン・ウォルグリーンのアプリ画面。
テレビ電話やチャットでの相談が可能

篠田:それは便利ですね。

郡司:他にも、テレビ電話で相談したり、薬剤師が24時間チャットで相談を受け付けていたりしています。チャットは僕も使ったことがあって、夜中の3時に「頭が痛い」とチャットしたら、いくつか質問されたあと、「偏頭痛がなくてよかったね! 近くのドラッグでイブプロフェンを買えばOKだよ」と言われました。

篠田:そもそも何のためにやっているサービスなんでしょう。

郡司:相談窓口があるとアピールすることで、お客さんは「体の心配があるときはウォルグリーンに行こう」って思いますよね。ウォルグリーンは「相談窓口をやっている店」としっかり示しているので、ブランドがしっかり立つんです。

篠田:日本で取り入れるのはハードルが高いかもしれませんが、ブランディングとしては学ぶところはあるかもしれないですね。

紙のチラシやLINE公式アカウントから、アプリに移行したほうがいい理由


郡司さんがココカラファインでリリースしたアプリ

篠田:ドラッグストアにアプリを提案しても、「LINEの公式アカウントで十分」と言われてしまうことがあります。現状、LINEを使ってどんな施策を打っているんでしょうか。

郡司:LINEの施策については、関東や関西などの地域ごとに変えているところもありますが、全国一括で施策を打っているところが多いです。ドラッグストアのLINEでは、よく10%オフのクーポンやチラシを配信しています。そうすることで、LINE公式アカウントの友達は増えますが、ペイできていないと思います。なぜなら、先ほども言いましたがドラッグストアは粗利益率が低い業界であり、営業利益率は5%前後です。クーポンで全品10%引きは身を削る販促ですし、配信する人数によってお金がかかるため、赤字になってしまうんです。

篠田:友達が増えても、何もできていないんですね。

郡司:ただ、LINEでできた友達をアプリに誘導して、アプリと連携して運用するのはありだと思います。

篠田:それ、僕もよく提案しています。LINEは一番目に付きますしね。

郡司:LINEは既にインストールされているから友達を獲得しやすい。そこからアプリも使ってもらう。
LINEだと、コストを考慮して月2回しか配信できなかったクーポンやチラシ配信なども、アプリと連携すれば、毎週送ることもできるし、コストも下がる。

篠田:今チラシを配信するという話が出ましたが、ドラッグストアは紙のチラシを重要視していますよね。ある会社では「チラシが命」と仰ってました。

郡司:でも、紙のチラシって、費用対効果としては赤字なんですよ。チラシが多いほうが売上は上がるんですけど、経営サイドは経費削減したい。折り込みのコストも上がっています。でも、競合他店がやっているとやめられない。長年のあいだチラシ合戦になっているんです。

篠田:チラシをアプリに変えることで、費用を抑えることができそうですね。

郡司:僕がココカラファインで作ったアプリでは、登録した店舗のチラシや販促カレンダーを見られるようにしました。特に車で移動する郊外立地の店舗では効果的でしたね。

篠田:アプリなら配信数の制限なしで使えるから、メリットが大きいですよね。

CRM導入で、ドラッグストアの可能性が広がる

郡司:CRMの話に戻りますが、顧客分析ができれば、個人に合わせた接客ができるようになりますよね。外出が憚られる今、アプリで接客するのもありです。

篠田:このコロナ禍で、とりあえずzoomなどでオンライン接客を試している店もありますが、それだとチャネルが増えるだけになってしまっています。

郡司:チャネルを増やすのではなくアプリに統合すれば、店頭に近い接客ができるかもしれません。お客さんの購入履歴が分かることで、店員は「最近美容液を買ったばかりだからまだいらないだろう」とか「美容液の上に塗れる日焼け止めを勧めてみよう」 など、どう接客すべきか予想が立てられるわけです。

篠田:お客さんは、自分のことを分かってくれてる店員さんならまた相談したくなりますしね。

郡司:しかも、店側は人件費の最適化にもなります。なぜなら、例えば化粧品に詳しい化粧品担当者が店内にいても、ずっと接客をしているわけではないですよね。そこで、特に優れた化粧品担当者をオンライン接客担当として、自宅などから接客できる状態にする。店頭にタブレットを置いてアプリで接客できるようになれば、その人は全ての勤務時間を接客にあてることができます。勤務時間が短い分、時給を上げるなどすれば、担当者のモチベーションも高まります。そして、化粧品の接客頻度が高くないなどの理由で、化粧品に詳しい担当者がいない店舗でも、満足のいく接客を提供することができます。

篠田:トータルの人件費が削減されて、売上もアップしますね。

郡司:そういうことです。

篠田:ドラッグストア業界に対して、アプリで貢献できることは多そうですね。今日はありがとうございました。

郡司:はい、期待していますよ。

<郡司さんから学んだ、ドラッグストアでアプリを活用するポイント>

  • CRMを活用することで、顧客分析が可能になる
  • アプリ開発の際には、CRM連携を想定したコンセプトメイクを行うべし
  • CRMと連携することで、顧客に合わせたお知らせができ、さらにはお客さん個人に合った接客も可能になる
  • チラシ合戦から脱却できて、顧客単価を上げる取り組みも可能性がある

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