セミナーレポート|2020/1/29開催 Biz/Zine Day 2020 Winter「DXで変わる、店舗の顧客体験」

セミナーレポート|2020/1/29開催 Biz/Zine Day 2020 Winter「DXで変わる、店舗の顧客体験」

2020年1月29日に開かれた「Biz/Zine Day 2020 Winter」(主催・翔泳社)で、ランチェスターの代表・田代が「DXで変わる、店舗の顧客体験」をテーマに顧客時間・風間公太さんと対談しました。

今回はその模様をレポートします。小売業界で進むDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状と課題、そして成功の秘訣とはーー。

 

スピーカー

株会社顧客時間 チーフ・プランナー/広報統括
ソーシャルメディアスペシャリスト 風間 公太 氏

音楽学校や劇団四季での広報・宣伝担当を経て、2007年良品計画に入社。「無印良品」の公式Twitter、Facebookなど各種SNSの開設、モバイルアプリ「MUJI passport」の運用など、デジタルマーケティング全般の企画運営に携わる。2019年、顧客時間にチーフ・プランナー/広報統括として参画。アプリの企画・設計・運用支援、CRMなど、企業のデジタルマーケティングやDX推進の戦略づくりを支援している。

株式会社ランチェスター 代表取締役
田代 健太郎

2007年、ランチェスター創業。2010年からアプリ開発に携わる。2017年にリリースした、モバイルアプリプラットフォーム「「EAP」を基盤に、現在は、企業が顧客起点でone to oneマーケティングを実現できるアプリ開発やマーケティング支援をおこなっている。パタゴニアやSHEL’TTER PASS(シェルターパス)、オンワード公式アプリなど、小売の知見を豊富に持つ。

「顧客時間」からみたカスタマージャーニー
長期間接点を持つ「使用」がポイントに

田代:近年、生活者のデジタル化が進み、購買行動が大きく変化しています。デジタルをうまく活用することが、小売業にも求められている時代です。では、どうやってDXを進めていけばいいのか。今日は、顧客時間の風間さんと一緒に、皆様のお役に立てるような情報を提供できればと思います。

まずは、今、なぜDXが求められているのか。そのことについて風間さんがどのように考えているのか、教えてもらえますか?

風間氏(以下敬称略):前提となるDXの定義をはじめに確認させてください。DXには、2つの側面があります。ひとつは、業務の効率化にデジタルをどう活用していくか。そして、顧客体験をデジタルでどう変えていくかです。この対談では、顧客体験をどうデジタルで変化させるのかということを中心にお話したいと思います。

次に、私たちの会社名でもある「顧客時間」の重要性を説明します。顧客(ユーザー)の行動を「選択」「購入」「使用」の3つの段階で考えたとき、従来は「購入」、つまりいかに商品を買ってもらうかに比重が置かれてきました。ただ、企業と顧客の接点は「購入」だけではなく、その前後の「選択」と「使用」、これらを含めてカスタマージャーニーを描く必要があります。「選択」や「使用」の行動データを取得するためには、店舗のPOSデータだけでは不十分です。そこで、デジタルを活用する必要が出てくるわけです。これが小売におけるDXの重要性のひとつですね。

 

田代:上の図には、「選択」と「使用」の部分にそれぞれ「傾聴」というワードがありますね。これは単にデータを取得するということではなく、お客様の声をしっかり聞きましょうという意味で、とても大事なことだと思います。

風間:現在、企業が圧倒的に重点を置いているのが「選択」と「購入」の段階です。つまり、いかに効率のいいプロモーションを仕掛けるか。ここに投資も含めて重点が置かれているように思います。

一方で、企業と顧客の関係性が最も長いのは「使用」です。私たち顧客時間は、特にこの「使用」に重点を置いて支援を行っています。そこをしっかり見て、他社とは違う購買体験を提供することができるどうか。それを実現させるために、デジタルをどう使っていくか。こうした考え方が、DXの取り組みにつながっていきます。

登山アプリ「YAMAP」の「エンゲージメント4P」とは?
アプリから派生して、自社商品開発へ

田代:今までと違う考え方で、お客様との接点をつくろうという流れが加速している背景には何があるのでしょうか?

風間:例えば、メンバーカードを持つ小売やブランドはたくさんあります。ただ、顧客との接点がそうした物理的なカードだけだと、企業が把握できるのは購買データだけです。本来最も知りたい、顧客が自分たちの商品とどうつながっているのかが、ノンデジタル・オフラインの体験だけではなかなかみえてこないのです。

ただ、スマホやアプリが登場するなかで、そういう情報をコスト面も含めて低いハードルで得られるようになってきました。単に、思想や考え方だけでなくテクノロジーの進化という技術的な背景もあり、「選択」「使用」を含めた顧客時間という考え方が、より実現味を帯びてきたのだと思います。

田代:実際、良品計画さんのような小売企業がデジタル化をどんどん進めていたり、その逆のパターンもありますよね。そのあたりの具体的な事例を教えていただけますか?

風間:まず、福岡にあるベンチャー、ヤマップの事例を紹介したいと思います。登山のときに使う地図のアプリ「YAMAP(ヤマップ)」を開発・運営している会社です。標高の高いところに行くと、携帯電話の電波が入りませんよね。ただ、GPSの情報は得られる。それを利用して、アプリで自分がどこにいるのかを確認することができるようにしたのです。「安全に登山しましょう」というサービスですね。

「YAMAP」には登った山を投稿する機能もあり、登山好きの人がたくさん集まる場になりました。全国からユーザーが集まるオフラインのコミュニティが生まれたのです。さらに、アプリ内で「こういうの便利だよ」と自分が使っている登山道具を他のユーザーに紹介するような現象も起きました。それが派生して、ヤマップは自社でオリジナル商品の開発をして販売するようになります。地図アプリから始まった会社が、プロダクトをつくるまでになったのです。

顧客時間がよく用いるフレームワークのひとつで「エンゲージメント4P」と呼ばれるものがあります。「Product」→「Price」→「Promotion」→「Place」のようなフロー型マーケティングではなく、「Place」、つまり「場」に重きを置いています。ヤマップの場合、「Place」は山やアプリですね。そして、ユーザーとのエンゲージメントが高くなった結果、普段使っている登山道具の情報がわかってきて、最終的に「Product」につながっていったわけです。

従来のマーケティングの考え方だと、いい商品をつくれば売れる、といった発想になりがちですが、ヤマップはそもそもコミュニティ発想というか、そこから得られた情報をもとに商品開発に拡張していく考え方ですね。デジタル起点の企業が、チャネルをオンラインからオフラインへ広げた代表的な事例といえます。

注目の小売「TRIAL」のDX戦略
店舗でEC体験、新たなビジネスに

田代:今まで想定していなかったような競合が現れ、しかもエンゲージメントが高くて、差別化されたプロダクトまでつくってECで気軽に販売できる。こういう状況が、私たちの普段の生活のなかでどんどん生まれています。

これによって、何が変わったのか。一番変わったのはお客様です。お客様は、これまでと違うよりよい購買体験を求めるようになっています。それこそが企業に今、DXが求められている理由ではないかと私たちは考えています。

では、ヤマップのようなデジタル起点の企業ではなく、小売の企業がDXを進めるとどんな効果やメリットがあるのか。そのあたりについても、風間さんから具体的な事例も交えて紹介してもらいましょう。

風間:今回紹介するのは、九州地方を中心に展開しているディスカウントスーパー「TRIAL(トライアル)」(運営:トライアルカンパニー)です。デジタル化を非常にうまく進めている注目の小売企業で、全国から視察が相次いでいます。

具体的な取り組みとしては、「スマートレジカート」があります。買い物カートにタブレット端末をつけて、お客様がプリペイドカードをかざすと本人と認識され、あとは自分で商品をスキャンしながら買い物する仕組みです。商品をスキャンすると、端末の画面には「オススメ商品」が表示される機能があります。これはまさに、ECの購買体験そのものですよね。それをリアルの店舗で実現させたのです。決済まですべて端末で完結できレジ待ちもなくなりました。

店内にはカメラやセンサー、デジタルサイネージなども設置されています。これによって、お客様の行動や棚の状況などをデータ化しているわけです。そのデータを自社内だけでなく、メーカーに対しても商品提案手法や売り場改善の取り組みとして活用されています。

また、コンビニのような小型店の「トライアル Quick(クイック)」という業態があるのですが、ここではアプリだけで買い物を済ませられる仕組みを取り入れています。これには顧客体験という意味でのDXの要素もあるし、人出不足を解消するというオペレーション側のDX、その両方にアプローチしているわけです。

トライアルの取り組みを、さきほどの「エンゲージメント4P」で見ていきましょう。まず、スマートレジカートや店舗が「Place」となり、お客様とのエンゲージメントは「レジ待ちなし・ワンストップ」です。それによって何が生まれたか。

1つは、デジタルサイネージという“メディア”をもつことで、それを使ってメーカーとタイアップするサービスが生まれました。またこのデジタル化の仕組み自体をほかの小売業に提供していくような取り組みも進めています。自社のなかで閉じずに、仕組みそのものを他社に販売してマネタイズしようという試みです。

田代:オフラインからオンラインへという、まさにヤマップの逆のパターンですね。

風間:顧客体験を考えたときに、何をどうデジタル化していくのか。「トライアル クイック」は、レジ無しコンビニ「Amazon Go(アマゾンゴー)」のようにすることもできたと思います。しかし、年配の買い物客も多くいるなかで「Amazon Go(アマゾンゴー)」のような形態をいきなりとってしまうと、ハードルが高く感じる可能性がありますよね。

ここで大事になるのが、お客様の気持ちを考えたデジタル化です。企業が考える利便性と、顧客側の心理や快適性。そのあたりのバランス感覚がトライアルは長けています。

私も実際にお店に行きましたが、高齢のお客様も「スマートレジカート」を使いこなしていて、浸透ぶりに驚きましたね。

「人」「組織」「プロセス」「システム」から読み解く
DX成功企業の共通点

田代:DXによって企業も顧客理解が進み、色々なサービスの提供ができるようになるわけですね。さらに、トライアルのように新しいビジネスが生まれる可能性もあります。DXには、そういった様々な効果があるんですね。

さて、私たちもアプリ開発などで色々な企業を支援させてもらっていますが、うまくDXを進めている企業には共通点があるように思います。それは大きく4つ、「人」「組織」「プロセス」「システム」です。

まずは「人」です。風間さんと「MUJI passport」をご一緒させてもらったときは、風間さんの上司にあたる方がキーマンとなり、うまくプロジェクトが進んでいきました。そうしたキーマンになる人の共通点はありますか?

風間:単なるデジタルマーケティングではなく、DXの推進には様々な部署や人が関係してきますし、カバーする領域も広いですよね。ですから、いかに関連部署や人を巻き込みながら、組織全体としてプロジェクトを動かしていくか。そこが重要で、キーマンはそういうことに長けている人が多い印象があります。

田代:私もそう感じます。ただ、キーマンと一口にいっても、タイプは様々ですよね。リーダーシップを発揮して引っ張っていくような人もいれば、周りの人たちが動きやすい環境をつくって、仲間の力をうまく引き出すような人もいます。

では、次に「組織」についてです。キーマンを中心に、実際にどの部署をどう巻き込み、組織全体として進めるか。良品計画さんでDXに取り組んだときは、どうだったのでしょうか?

風間:「MUJIpassport」を始めたときは、店舗を管轄する「販売部」やカスタマーサポートの「お客様室」、このあたりを巻き込みながら進めました。新しい施策やキャンペーンをやるわけですから、少なからずお客様にも戸惑いが生じる可能性があります。最初にお客様からの反応が届くのは、カスタマーサポートの部署です。お客様への理解を促進するためにも、カスタマーサポート部門がポイントになるケースが多いと感じます

あとは当然、経営企画のような会社を統括する部署ですね。顧客時間として支援させていただく際にも、そういった部署がプロジェクトを先導してくれると非常にやりやすい。

田代:圧倒的にやりやすいですね。青写真が描けているので、スピード感が違います。そこで、3つ目の「プロセス」です。そういうトップダウン型で進めることもあれば、担当部署を中心に進めるボトムアップ型もあります。

部署横断のプロジェクトになると、どうしても腰が重くなりがちですが、ランチェスターもこれまでの支援で知見がたまってきているので、そのあたりもうまくお手伝いできる場面は増えています。まずはライトに始めてみるというのもありだと思います。そのあたりのプロセスについても、ぜひ教えてください。

DX推進のカギはPDCAを小さく回すこと
システム開発の負担も減りつつある

風間:無印良品のDXでは「MUJI passport」がフォーカスされることが多いのですが、いきなりアプリを開発して何かが解決したわけではありません。そこに至るまでに、オフラインとオンラインをまたぐような実験的な取り組みを色々とやってきたのです。

例えば、ECで店舗の在庫を表示する、ECで注文して店舗で商品を受け取る、といった取り組みです。なぜかというと、デジタルを使うことでどんなメリットがあるのか、現場の店舗にいる人たちに体験してもらうためです。いきなり大きくバーンと進めると、それに対する反動や抵抗が大きくなるリスクがあり、続けるための体力も必要です。ですから、ライトに始めて、小さな成功体験を積み重ねていくことが重要だと思います。

田代:小さくはじめる、小さなPDCAを回していく。それが回数を重ねていくと、大きな取り組みにつながっていくのだと思います。成功の秘訣は、そうした小さなPDCAを回すスピード感やフットワークの軽さだと感じますね。

そして、4つ目の「システム」についてです。ランチェスターが「MUJI passport」などをお手伝いさせてもらったときは、フルスクラッチでゼロからアプリなどのシステムをつくっていました。ただ、今は様々なプラットフォームが出てきています。

例えば、私たちがアプリ開発やマーケティング支援でご一緒させてもらっているアウトドアメーカー、パタゴニアさんの例でいうと、セールスフォースさんのSaaSを徹底的に使っています。ゼロからつくっているものはほとんどなく、そこに私たちのアプリプラットフォーム「EAP」を活用いただいています。

2019年10月にリニューアルした東急ハンズさんの「ハンズクラブアプリ」も、ランチェスターが企画段階から携わらせてもらいました。ここでも「EAP」を使っています。フルスクラッチよりも、格段にスピードが早いのです。

世の中にはすでにたくさんのSaaSがあります。今あるものは、これまで様々な企業が繰り返し試してきて、その結果、生き残っているものです。つまり、厳選されたサービスといえます。私は、これは使わない手はないのではないかと思っています。システムは非常に安価になってきているので、ぜひ「EAP」のようなプラットフォームを活用しながら、小さくPDCAを回していただくことを意識していただければと思います。

では最後に、改めてDXを進めるうえで、何からどう着手すべきか。風間さんから意見をお聞きしましょう。

まずはポイントカードのアプリ化から
アプリを起点に理想のDXへ一歩近づこう

風間:まず、顧客を中心に置いたうえで、多くのことを可視化していく作業が必要でしょう。そもそも、その企業のブランド価値は何なのか。マーケティングモデルは何なのか。デジタル化でどんなデータが得られ、それをどうお客様に還元していくのか。さらに、そもそもの事業ビジョンや組織オペレーションなど、そういったことをひとつずつ言語化しながら、目指す理想的なDXの姿を描いていくことが必要です。

単にアプリをつくるといった次元ではなく、それがしっかり企業活動に基づいたDXなのか。そういう風に俯瞰して捉えることが重要で、私たち顧客時間はそうしたフレームワークと考え方でDXの支援をさせてもらっています。

田代:そうした青写真だったり、大きな設計書をつくることはとても大事ですよね。それをつくって、小さくPDCAを回していくことがキーになるでしょう。

そのためにも、私たちはまずポイントカードのアプリ化からはじめてみることをオススメします。会員証アプリと店舗を「エンゲージメント4P」でいう「Place」とし、そこを起点に「よりよいお買い物体験」というエンゲージメントを高め、「Price」「Promotion」「Product」へと広げていくイメージです。

風間:私も同感です。どこからDXに着手しようかと考えた際に、私たちが「MUJI passport」をリリースしたときと決定的に違うのは、今はアプリをフルスクラッチで何千万円もかけずに安価でつくれる時代だということです。

アプリはデジタルを使ってお客様とつながり、接点をつくるうえで大事なツールです。開発コストが下がってきているので、試しやすい環境にあります。たとえ数千万円の稟議書が承認されにくくても、部長の決済ではじめられることもたくさんあるはずです。

田代さんがPDCAを小さく回していくことが重要だと指摘されましたが、もっと言えばあまりPlanに重きを置きすぎず、DCAを高速で回していくくらいでもいいと思います。色々な施策を打ちながら、完成形に近づけていく。これはむしろ、デジタルだからこそできることだと思います。

田代:最後に一言、伝えさせてください。やはり一番大事なことは、企業の視点ではなく、お客様の視点で考えて、様々な施策にチャレンジすることだと思います。今、お客様のデジタル化が進み、求める体験やサービスは急速に変化しています。DXの推進や、その足がかりとなるアプリの導入に興味のある企業は、ぜひランチェスターにお声がけください。本日はありがとうございました。

 

<関連リンク>
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▼ECzine Dayレポート|patagoniaが目指すこれからのブランド体験とは?

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